日本の料理人が追求する「味への執念」——素材から水まで
金沢から水を輸送する料亭、スコットランドで技術を学んだウイスキー創業者たち。日本の食文化を支える職人気質を考察する。

水までも運ぶ——ある料亭の事例
赤坂に「浅田」という料亭がある。金沢の老舗料亭が東京に構えた店舗で、政財界の要人が利用することでも知られる。この店について、興味深い話がある。浅田では食材だけでなく、水も金沢から東京へ輸送しているという。
金沢の味を東京で再現するために、水から変える。水の違いが出汁に影響し、出汁が料理全体の味を左右する——その連鎖を理解した上での判断である。この事例は、日本の料理人が持つ「味への執念」を端的に示している。
「どこまでやるか」という問い
すべての料理人が同じアプローチを取るわけではない。地元の食材にこだわり「この土地で採れたものを、この土地で食べてもらう」という哲学を持つ料理人もいる。一方で、世界中から最高の食材を取り寄せる料理人もいる。イタリアの塩、フランスのバター、北海道の昆布——産地を限定せず、品質を追求する姿勢である。
どちらのアプローチが正しいという問題ではない。共通しているのは「味のためなら、どこまでもやる」という姿勢である。
ウイスキー産業に見る同様の精神
この執念は飲食の世界に限らない。日本のウイスキー産業の歴史にも、同様の精神が見られる。
日本のウイスキー産業の礎を築いた人物として、サントリー創業者の鳥井信治郎と、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝が挙げられる。竹鶴は1918年にスコットランドへ渡り、現地の蒸留所で技術を習得した。当時、日本人がスコットランドでウイスキー製造を学ぶのは前例のないことだった。帰国後、竹鶴はスコッチに匹敵するウイスキーを日本で製造することに生涯を捧げた。
蒸留所選定における水質へのこだわり
蒸留所の立地選定において、竹鶴が最も重視したのは水質だった。北海道の余市を選んだ理由の一つは、スコットランドに類似した冷涼な気候と、良質な水源の存在である。サントリーの山崎蒸留所も同様の観点から選定された。京都と大阪の境に位置する山崎は、三つの川が合流する地点であり、古くから水質の良さで知られていた。鳥井信治郎が川の水を実際に飲んで立地を決定したという逸話が残っている。
これらの事例は、日本の職人が「本物」を追求する際にどこまで徹底するかを示している。
各分野における職人の徹底ぶり
日本の料理人の多くは「味のためにどこまでやるか」という問いに対し、極端なレベルまで追求する傾向がある。
寿司職人は、ネタの産地選定に加え、シャリに使用する米の品種、水、酢の配合を何年もかけて研究する。焼き鳥職人は、備長炭の産地や炭の焼き加減、火力のコントロールにこだわり、鶏肉の解体を自ら行って肉の状態を見極めながら焼き方を調整する。天ぷら職人は、油の温度を1度単位で管理し、衣の厚さを毎回確認する。蕎麦職人は、水の温度、蕎麦粉の挽き方、打ち方のリズムまで追求する。
特定の野菜を理想の状態で入手するために、農家と直接契約し栽培方法まで相談する料理人もいる。サプライチェーンを一から構築してでも、求める味にたどり着こうとする。これは単なる「こだわり」という言葉では表現しきれない「執念」である。
外見からは判断できない深さ
日本の食文化が世界的に評価される背景には、この執念がある。しかし同時に、この深さが外部からの参入障壁を生んでいる。
外見上は何の変哲もない小さな店——駅から離れた場所にあるカウンター8席だけの店——であっても、店主が20年以上この道一筋で、素材の選び方から調理法まですべてに根拠がある、という店が日本には無数に存在する。しかし、外見からはそれが判断できない。メニューは日本語のみ、価格表示がない店もある。予約方法も、何を期待すればよいかも、情報として得られない場合が多い。
これが日本の食文化の「入りにくさ」を生んでいる。
LocalWaysの位置づけ
LocalWaysは、ミシュランや食べログの代替を目指しているわけではない。料理人を評価したり、店舗をランキング化したりすることが目的ではない。
LocalWaysが目指すのは、「職人の世界」と「利用者の意図」を結びつけることである。
「記念日なので特別な体験をしたい」
「初めての寿司なので、英語で説明してもらえる店がよい」
「静かにカウンターで職人の技を見たい」
「カジュアルに地元のラーメンを楽しみたい」
利用者が求める体験を理解し、それに合致する店を提案する。予算感、時間感覚、コースの長さ、予約の必要性——「訪問前に知っておくと有用な情報」を自然な言葉で説明する。
日本の料理人たちが長年かけて築いてきた職人の世界への入り口に立つ人を、少しでも手助けすること——それがLocalWaysの役割である。
「味のためにどこまでやるか」という問いへの答え
日本の料理人に共通するのは、この問いに対する答えが常に「もう一歩先へ」であることだ。金沢から水を輸送する。スコットランドで技術を学ぶ。炭の産地を何度も変えて試す。農家と何年もかけて理想の野菜を育てる。
味なのか、それとも「本物」への献身なのか
ここで一つの疑問が浮かぶ。金沢から水を運ぶ料亭の話に戻ろう。東京の水道水と金沢の水で出汁を取り、ブラインドテストを行ったとき、果たしてどれほどの人がその違いを識別できるだろうか。科学的に検証すれば、味覚的な差異は極めて微細かもしれない。
しかし、それは問題の本質ではないのかもしれない。日本の料理人が追求しているのは、単なる「味」ではなく「本物であること」——すなわち「真正性(authenticity)」への献身ではないだろうか。
金沢の料理を東京で提供するならば、金沢の水を使う。それが「正しい」からである。スコッチウイスキーを日本で作るならば、スコットランドと同じ製法を忠実に再現する。それが「本物」だからである。味の違いが検出可能かどうかは、実は二次的な問題なのかもしれない。
この「本物への献身」は、日本の職人文化に深く根ざしている。正しい手順を踏むこと、妥協しないこと、細部まで手を抜かないこと——それ自体が価値であり、美徳とされる。結果として味が良くなるかどうかとは別の次元で、「そうあるべきだからそうする」という姿勢が存在する。
こうした人々の存在が、日本の食文化を形成している。そして、その世界への扉を少しでも開きやすくすることが、LocalWaysの取り組みである。
編集部注: LocalWaysは、日本での飲食店探しにおける情報の非対称性を解消するために開発されたAIアシスタントです。機能に関するご質問やフィードバックは、info@localways.shopまでお寄せください。